わたしは昨年夏を思い出して、あの哀しみとあの悦びを超える夏は一生こないだろうと、胸に誓うのでした。この一文を書くことで、わたしがこれまでどれほど貧しい夏を送ってきたのかバレてしまっても仕方がないと思うのでした。あの人やあの人やあの人にすべてバレてしまってもそれは、わたしが数十年生きてきてもっとも美しい希死念慮に触れた瞬間に間違いがありませんでした。それはどんな瞬間よりも幸福で、あの瞬間に私はこの世に生きる意味を失ったのかもしれません。ひとりよがりでわがままで醜い自我がその瞬間にだけ解放されていたのでした。わたしはあの瞬間が訪れるまでずっと死んだように生きていて、そのあともまた死んだように生きているのでした。

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